私は歓びの中でヘレンを存分に楽しませた。
夫は社会人として大人として語った。
私が世間に揉まれてこなかったがゆえの弊害・欠点をしっかり指摘してくれた。
「普通はあんなことされたら人は嫌がるんだよ」
私は話すことに関してのコントロールにだらしなく緩い人間だった。
「なぜ、今この話題なの?」
夫だけでなく幾人もに聞かれた。自分でもなぜかはわからない。
「だって、話したいから!」というのは幼くばかげた理由だ。
当然、人間関係は狭まった。その点については感情は麻痺させていた。
精神的に学校・社会から迫害を受けてきた過去は君(私)の誤解・幻に過ぎない、
被害者意識を持たなくていい、
君は動物界でいうところの家族や兄弟と共に幼い頃から「甘噛み」という
優しさを実体験してこなかっただけに
手加減ゼロの君の怒りの破壊力は脅威なんだよ、と懇々と説明してくれた。
命よりだいじなものを消させる悪魔の顔も
僕を病院送り寸前まで追い詰めたことも
君の無自覚の破壊力がどれだけ周囲にダメージを与えたか。
病棟で突然怒り出した入院仲間も、
初めて君の責任で飼った犬猫のむき出しの敵意も
「普通はそれをされたら嫌なんだよ!」と去っていった友達も、
過去のすべての出来事は君を虐げたのではなくて
世界鏡に正直に映して教えてくれていたんだ。
入院時のご家族の苦しみも君が薬の副作用で感じた苦しさと同等だっただろうね。
夫はただ事実のみを連ねて静かに教えてくれた。身体を張って教えてくれた。
彼の叱るのと彼の愛情は微塵もリンクしていない事実が私の中で理解の音をたてた。
ここ最近の不安は夫の愛情を疑ってしまっていたのに端を発していた。
叱られることを恨めしく思っていた。
夫は愛情をただ伝えてくれていたのだ。
話の根幹が理解できた途端に涙が噴き出した。
ヘレン・ケラーのWater!の瞬間だった。
私の内で般若から菩薩までの道が明るく照らしだされた。
体当たりで教えて諭してくれた夫の努力も気持ちも有難かった。
お薬を整えてもらいにいかなくっちゃ、という小賢しい考えは消失した。
その後は苦しんだ不眠から一転、深く眠れた。
頭のぼうっとした感じは嘘みたいに取れていた。
私は歓びの中でヘレンを存分に楽しませた。
やることなすこと裏目に出てその度に学んでこなかった自分。
悔しく思ってそのまま固まって進まなかった自分が世界の恵みと踊っている。