金縛り。
父に無理を言って大型のステレオセットを買ってもらった。
日曜などに掃除をしてステレオを拭いていると父はからかうように
にやっとして一瞥していくのだった。
大体夜の8時ごろにふすまが開いて「音を小さくしないか」と
真下の祖父の部屋への気遣いをしなさい、と注意が飛んだ。
畳の部屋にカーペットをひいて、昭和の中学生の部屋である。
ある時、わたしはテスト勉強をしていて、深夜2時まで起きていた。
勉強で詰め込んだ頭はぎゅうぎゅうで、ベッドに倒れこむように沈んだ。
そして、身体が急に動かなくなった。
耳元でお経、あるいは念仏が聴こえ、身体は水平のベッドに寝ているわりには
ななめにずり落ちそうになって傾斜がかかった。
そうこうしているうちに、身体の動きは溶け、わたしは眠った。
後日、母にこの話をしたら、「苺のベッドは階下の祖父の部屋の仏壇の上に
位置してるわよ」と言い、「ベッドの方向を変えておくわね」と言うのだった。
それが唯一の金縛り経験だった。
ベッドの頭の向きを変えただけで解消するものではないにせよ、
こういうのは気分の問題、と母と納得しあった。
今では祖父、祖母、叔父、父と遺影が並んでいる仏壇である。
わたしは脳内出血で救急搬送された。
脳内出血と言えば父の死因である。
もう鬼籍に入った先祖が守ってくれた命なのだろうな、と思う。
ききわけのない子どもだったこと、本当にごめんなさい。