入院も退院もある日突然に、のNさん。
80歳代のNさん。突然に精神科病棟に連れてこられて
右も左もわからない。とりあえず外に出られそうなところを探し求めて
うろうろするのであった。推量でしかないのだが、当時ものすごい
積雪に見舞われた故郷の県だった。雪かきも体力のないNさんでは
足手まといだっただろう。姥捨て山にA病院が選ばれたか。
「婆さんはどうしているだろう」
Nさんは急に閉鎖病棟に入れられお薬を看護婦さんから飲ませられ
混乱していた。「外に出るにはどうしたらいいか」
あのね、ここはなんでもお医者さんの許可が要るの。
許可が出てから扉が開くの。説明しながらわたしはゲームの取説みたいだなと
感じた。お婆さんと連絡をとりたいNさんはある時入れ歯の不具合を
看護師さんに訴えていた。歯科医に行かなければ、と話をまとめたのは良い
けれども、その許可は下りていない。Nさんは手詰まりを感じ
フリーズしていた。入院の手引書には大体の入院期間が書いてある。
わたしの場合は本人のサインで受け取った。Nさんはもらっているか
もしくはご家族がお持ちなのか。必ずどちらかしかない。
ご家族が連絡あるいは面会に来てご本人に伝えてあげられないものか。
Nさんの苦悩は続く…
「あの樹は桜の木ですかの?」
そうですよ。A病院がこんなふうになるまでは観桜会だってありましたよ。
わたしは「魅せられて」を歌い、録画されたものを文化祭でチラっと見ました。
あれももう無いんですね。ええ、それは良いのですけれど、
あの頃の職員さんたちもいなくなって寂しいです、はい。
Nさんも突然ご家族がいらして退院のお話が出る筈です。
桜が咲く頃を待ちましょう。