精神的な壁・ひらりと飛んで虹。

やはり心のことを書こうと思い直し。

観音崎くん。

北のトップ(病棟男性のボスにひそかにつけたニックネーム)さんは

食事の配膳車で名前の並びが上下近かったので

観音崎くん!」とすぐ苗字を覚えられた。

「はい!」いいお返事をしないとトップは納得なさらない。

 

「伊藤くん!」テレビのリモコンでチャンネルを替える係りは

わたしの食事の向かい側に座っている伊藤さんだ。

「ちょっとNHKに替えて天気予報を見たいから」が

ボスの言い分だった。ボスは天気情報と新聞と雑誌を確保した席で

悠々と病棟暮らしをなさっていた。

 

「小泉さんがこの病院の体勢を今のように変えた」ボスが仰る。

男女の別を無くして混合の病棟になったのは聞き及んでいた。

病状が良く安定すれば開放病棟へ上がっていける。

わたしはこの場所から退院するのだ、と心に決めた。

 

もちろん、それも可能である。

ピンク色がだいすきなUちゃんもこの場所から退院した。

可愛いしろたんのぬいぐるみをお父さんに持ってもらって

とびきりスイートに退院した。彼女らしい退院風景だった。

 

チャンネル係りの伊藤さんもわたしより一足早く退院した。

西郷隆盛さん体形の伊藤さんは口数は少なかったが

食事中のこのおばさん(わたし)のやくたいもないお喋りを

聞き続けてくれた。いいひとである。

「聞き役って難しいんだよ」東京に帰って彼(夫)が言う。

そうだと思う。

 

観音崎くん!静かにしたまえ」よくボスには叱られた。

「危ない!ちょろちょろすんな!」

脳梗塞を患いきき足を軸にし華麗にピボットをしてみせたボスさん。

その節はご免なさい。

確かに騒がしい患者でした。否定はしません。

 

大声でだいじなことを忌憚なく喋り続けるボスさん。

しゃべくりのチャンピオンならわたしではなくボスさんだ。

ともに病棟暮らしをした仲間だ。