閉鎖病棟の扉の象徴するもの。
鍵をかけられ自由に出ていけない重たい扉があった。
比喩ではなく現実の閉鎖病棟の入り口の扉だ。
外に面した窓にはすべて格子がはめられ風景を見る視界は区切られている。
ドクターにたてつき興奮しきって部屋に戻った他の患者仲間は
自分を鼓舞するように「あー! いいお天気!」とあかるい調子で
一言つぶやいたのが廊下にも響いてきた。
彼女も落ち着けば勿論いい人なのだ。ただ興奮状態がとまらず辛いだけだ。
落ち着いて、と諭されても耳に入らない状態だから入院しているのだ。
そうして振り返りながら客観的にも私は自分の過去の状態を把握する。
入院生活にも学べるところ。「いいお天気!」の彼女も入院歴は数回だ。
閉鎖病棟に一緒にいたりどちらかがいないときもあったりして
さして仲良しでもなく波長は合わなかったが同世代で仲間という意識はあった。
かなりとんちんかんな持論を強く持つ彼女を時々思い出す。
とんちんかんでは周りからしたら私も大差なかったのだなあ、ということも。
鍵をかけられ自由に出ていけない扉があった。
あの入り口の扉を患者として中へくぐった者には学びがあるということだった。
学びを拒否し続けていれば社会に「出る杭は打たれる」。
彼女も私もそれだけのことでそれだけのことだから心に畳むものも大きかった筈だ。