精神的な壁・ひらりと飛んで虹。

やはり心のことを書こうと思い直し。

おやつと普段着。

病棟の定員50名。その頃はほぼ満杯だった。

入院者は割合と続々やってくるものだ。不思議と定員は超えない。

詰所で退院者と入院者のバランスを見たり調整もしていたのだろう。

 

患者たちの8割ほどは上下のジャージ姿。

普段着るものは患者自身の持ち込みだ。

30年前は私物に名前をつけるのが原則だった。

ハンカチやショーツに至るまでマジックで名前を書かされた。

細かいものまで記名するのは当時から入院仲間に不評だった。

15年前ほどの入院時にはそのあたりがだいぶ緩和されていた。

少なくとも「ショーツに記名」は無くなっていた。

 

なぜそこまで名前を書くか…というと実際に盗み行為があったからだという。

 

A病院の病棟においては、物の盗み行為はほとんど無かった、と記憶している。

小競り合いの末に腹いせで化粧水を盗った、くらいだろうか。

そういう手癖の人がいたことは覚えている。

そういう手癖の人はおやつなどもたかる、といった感じだったろうか。

 

たかっているつもりは本人には無いようだった。

誰かがおやつを食べていて「自分も食べたい!」純粋にそう思ったから

「頂戴」と言っているそれだけの意識のようだった。

他の患者仲間は彼女の性質をじゅうぶん熟知しており

ホールなどその人の前で食べ物を食べない、という工夫がされていた。

 

また普段着の話に戻る。

30年以上前に着るものの盗み行為があったかどうかは知らない。

だが、食べ物よりは発覚しやすいことは間違いないだろう。

わりと誰々がどんな持ち物を持っているか

どんな服を普段から着ているかは看護師含めみんな当たり前に知っているのだ。

 

病棟内への私物の持ち込みは貴重品含めあまりに華美なものや高価なものは

原則として禁止されていた。持ってきても詰所で止められた(保管された)。

病棟内の8割がジャージ姿というのもそういったところから選ばれる

無難なファッションではあっただろう。私はジャージ以外の私服を

何枚か着まわしていた。すると「苺ちゃん、リッチ♪ー」と声をかけられた。

着る楽しみをそのように形容されるとなんともいえない気持ちにはなった。

 

また一日に気分次第で何度も着替える人がいた。

何日も着替えない人もいた。世間の縮図が病棟にあらわれていた。